ミームボルグの魔女

ウスボンヤリと少女

ウスボンヤリ

斡旋所の帰り道、丁度5丁目の精神病院の近くを通りがかってあれを見た。

ウスボンヤリである。

 

焦りはしたが、いくばくか慣れて来たのか、

私は深呼吸をすると、近くの物陰を探した。

 

ふと病院の入口に誂え向きなチェスピースのオブジェを見つけたのでそこに隠れる事にする。

黒のルークのオブジェは病院関係者が手入れをしているのか、ほとんど劣化していなかった。

a7:The mistakes are there, waiting to be made

 

 

少女

オブジェに隠れてウスボンヤリを観察する。

驚いたことにウスボンヤリの近くには少女がいた。

 

しかも、少女はウスボンヤリを見ている、

否、ウスボンヤリと遊んでいるようだった。

 

これが見える時は死が近い時であると老人に聞いたことがある。

 

現に私はこれを何度か見ているが、

その度大怪我をし、病院に運ばれた。

ただ一度、逃げ切れた時は犬を轢いてしまったときだった。

 

今でもあの時の事を思うと気の毒だが、

後で現場に戻った時、既に犬の亡骸はなく誰かに処理された後だった。

或いは犬は生きていて、自力で何処かに行った…というのは私の希望的観測である。

 

この事から、ウスボンヤリを見る時は死ぬとまでは行かなくとも

何らかの不幸が起こる可能性があり、それは私に起こる事に限らない。

 

つまり、もし私に何も起こらなかったとすると

あの無邪気な少女に不幸が訪れてしまうかもしれない…

花壇で遊ぶ魔女

観察

あれは直接少女に危害を加える類のものでは無いようだ。

しばらく観察していた私は驚きの連続であった。

 

その少女はウスボンヤリを一切怖がることもなく、

追いかけっこをしたり、抱き付いたり、頭の上に乗ったりしている。

 

あれは乗れるのか…

 

どう見ても黒い卵状の影で、

触る事のできないものだとばかり思っていた。

 

 

当然だ、周りの人間には見えていないのだから。

 

見えていない?

 

もしかして、見えているのだろうか?

 

あれは実はこの町では常識的な何かで、

皆見えているが気にせず素通りしているだけなのではないか?

 

そう思いはじめると私はいても経ってもいられなくなり、

近くを歩いていた人に尋ねてみることにした。

 

すみません、あそこの少女が遊んでいる卵型の影のようなものは何ですか?

危ない!

 

ワームウッドは兵隊さん
フィーバーフューのお姉さん
アンジェリカはわがまま言って
マジョラムいつも困らせる

ローズマリーの贈り物
ラベンダーの花言葉
オールスパイスで締めくくり
ハイビスカスは役立たず

 

君はあの時、虚影と魔女を見ていたんだね?

 

次に目覚めた時、私は病院のベッドの上であった。

居眠り運転の車が歩道に乗り出して運悪く私は跳ねられてしまったらしい。

やってしまった…

 

子供の頃の子守唄が頭の中で流れていた…

 

目が覚めた?

あの時、私が話しかけようとした人がそこに座っていた。

後で知ったのだが、この人が救急車を呼び、的確な応急処置を施してくれたらしい。

 

礼の言葉はいくら言っても言い足りない。

少しばかりの雑談と、最後に連絡先を書いた名刺を貰った。

名刺には私がよく読むニュースペーパーの会社名が書かれていた。


管理人 K


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