ミームボルグの魔女

廃ホテルの幽霊騒ぎ

記憶の彼女

私は友達が少ない…

もちろん出会いが全くない訳ではないが、その一つ一つを大切にしない人間の末路はこんなものだ。

 

こんな私でも幼少の頃は一緒に遊んでいた幼馴染がいた。

いや、いた気がする。

少し気の強いお姉さんだったような…

 

物心つく頃には彼女はいなくなっていたので、

それは既に記憶の断片にすぎない。

 

もしかしたら、私の創りだした幻なのかもしれない。

いずれにしても20年近く過ぎてしまった今となっては、

彼女と再会したとしてもお互い分からないだろう。

 

わりの良い仕事

日雇いの仕事を漁っていた。

ウスボンヤリに出会ったあの日から、なかなか定職に就く事が出来ないのだ。

 

 

今回の仕事は私にとっては当たりの部類だった。

 

2丁目の山中に、今は使われていない廃ホテルがある。

そのホテルで最近物音が聞こえるので、その正体の調査報告と

もし付近の悪ガキ共が侵入して遊んでいるのであれば厳重注意すること。

 

期間は一週間程度で一日3時間程調査すれば良いので、

何も起こらず一週間経過するのが私にとっては最も都合が良い。

 

廃ホテルの物音

件の廃ホテルに着いてみると、なかなかの雰囲気に圧倒されてしまった。

壁はところどころ崩れ落ち、窓ガラスは割れ、金属部分は完全に錆びついていた。

肝試しには最適な物件であろう…

 

兎に角、ここで一日3時間何もなければ仕事は終了である。

そう思いながら適当な石に腰かけたその時、

廃ホテルの中からガシャンと言う何かが落ちる音がした…

 

一日目にしてビンゴである。

私は溜息をつき、物音の正体が「聞き分けの良い子供」である事を願いつつ重い腰を上げた。

 

物音の正体

ホテルの入口には黒いナイトのチェスピースのオブジェが倒れていた。

この町の名物のチェスピースもこんなところにあっては無意味である。

掘られた文字はかろうじて読むことが出来た。

f4:Only the player with the initiative has the right to attack

 

ホテルの中の壁は落書きだらけだった。

物音の正体がこの落書きの作者であるなら、私が注意したところで無意味かもしれない。

もしガラの悪い連中だった場合はとりあえず逃げて報告だけにしておこう…

 

しかし、そんな心配は全く必要無かった。

 

小さな女の子の笑い声が聞こえてきたからである。

子供たちの秘密基地にでもなっていたのだろう…

 

少し安心しながら声のする方へと向かう。

階段を静かにゆっくりと上る。

 

あれは…

私は激しい後悔と諦めに近い感情で胸がいっぱいになった。

 

いつかの少女である。

ウスボンヤリと遊んでいたあの少女である…

 

おそらく、あの少女こそがミームボルグの魔女なのだ。

そこには、魔女とウスボンヤリと、アサブクロの猫がいた。

 

そしてこれらが見える時、私の身に不幸がふりかかるのだ。

今まで何度も経験してきた、もう諦めるしかない。

私は覚悟を決めた。

忘れられたホテルと魔女

それはとても微笑ましく見えた

どれくらい経っただろうか…

まだ、私の身に不幸は訪れていない。

この今にも崩れ落ちそうな壁が落ちてくるのか、私の重さに耐えかねた床が落ちてしまうのか…

などと考えながら物陰から魔女達の様子を伺っている。

 

普通の女の子だ。

彼女はウスボンヤリに乗ったり、アサブクロと追いかけっこをしている。

それはとても微笑ましく見えた。

 

無邪気に戯れながらも時折寂しい表情をする彼女はとても魅力的で…

やはり、彼女は魔女なのだ………

 

 

ふと、気づくと周りは真っ暗になっていた。

いつの間にか私は眠ってしまっていたようだ…

 

魔女達の姿は既に無く、辺りは静寂に包まれていた。

 

どういう訳か今回私に不幸は訪れなかった。


管理人 K


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