ミームボルグの魔女

悔恨

立派な仕事

金が無い…

 

私は今、3丁目の劇場前で看板を持って立っている。

 

誰かに劇場までの道を尋ねられる訳ではない。

こんな看板固定してしまえば良いではないか?

わざわざ持って立っている意味はない。

 

しかし仕事は仕事である。

この看板を持って立っているだけで、少しばかりのお金をもらうことが出来る。

 

ある偉い人は言った、

どんな仕事でも立派な仕事なのだと。

 

もちろん、それが本心でない事は言うまでもない…

 

ここに立ち、数時間もの間、街行くその他大勢をただ眺めているだけ…

ただ眺めているだけ…

 

なぜ生きているのだろう?

 

街行くその他大勢が嘲笑う。

 

死にたいの?

 

ふと誰かの声がした気がした…

 

死にたい訳ではない…

 

じゃあ、生きたいの?

 

生きたい訳でもない…

 

ただ、面倒なのだ。

生まれてしまった事実は今更どうにもならないし、

自ら死ぬには苦痛と恐怖が伴う。

 

しかし、生きていれば空腹になり、空腹を埋めるには

看板を持って立つだけの仕事でもやらなければならない。

 

地獄とはまさにこの世の事である。

 

それにしても、今の声の主は…?

 

ふと声のした方に目をやると、薄汚れたシーツが何かを覆い隠していた。

 

シーツの下に隠れていたものは、

白いナイトのチェスピースのオブジェであった。

 

この街のところどころで見かける名物である。

黒いそれとは違い、ことわざのような文字は彫られていないが、

g8とだけ彫られている。

 

確か、チェスの盤面はアルファベットと数字の組み合わせで駒の位置を表す。

つまりgの8にある白のナイトという事である。

 

しかし、声の主はこのナイトだったのだろうか?

長時間の苦行による幻聴だったのだろうか?


管理人 K


Next Post

© 2024 MemeB.org