ミームボルグの魔女

境界

わたしはそれを、虚影。そう呼んだ。

いや、そうとしか表現することができなかった。

すくなくとも、わたしの知るあらゆる事象の範疇では、理解も説明も不能だったそれを、わたしは仮にそう呼んだのだ。

 

それは、いかにも奇怪で不可思議で胡乱で、そして滑稽だ。

 

初めてそれを目にしたのは、わたしがまだ学生のころ。

そう、たしか3丁目。当時そこには空漠たる土地がただ広がっていた。

なにがしかの施設の建設予定地との話だったが、予定はえてして未定であり決定ではなく、例にもれずその土地も閑却されていた。

 

時間に忘れ去られた虚ろな空間と、時間の奔流に飲みこまれた煉瓦張りの道との境界。

いま思えばそれこそが、わたしの日常と、知らぬ誰彼の日常との境界だったのかもしれない。


管理人 H


Next Post

Previous Post

© 2024 MemeB.org